がん治療の常識変えた「免疫治療薬」 ノーベル医学生理学賞

 2018年のノーベル医学生理学賞に決まったのは、京都大の本庶佑(ほんじょたすく)特別教授(76)と、米テキサス大MDアンダーソンがんセンターのジェームズ・アリソン教授(70)。それぞれの研究がきっかけとなり生まれた「免疫チェックポイント阻害剤」は、進行したがんは治らないとされるこれまでの常識を変えつつある。治療への活用はさらに広がろうとしている。 こうした免疫治療薬は、免疫療法の一部。免疫療法は手術や抗がん剤、放射線に続く「第四の治療法」と期待されてきたが、これまでの大半は効果が確認されていない。 本庶さんらは1991年、「PD―1」を見つけた。大学院生として本庶さんの研究室に所属し、発見に関わった滋賀医科大の縣保年(あがたやすとし)教授(53)によると、当初は細胞が自ら死ぬ現象にかかわる分子とみられていたが、その機能はなかなかはっきりと分からなかった。PD―1が相手役のたんぱく質とくっつくと免疫細胞の作用にブレーキがかかるらしいことが分かったのは、99年のことだった。 やはり研究室の大学院生だった岩井佳子・日本医科大教授は2002年、抗体という物質でPD―1と相手役がくっつくのを邪魔すれば、抑えつけられた免疫のブレーキを外してがん細胞への攻撃力を高められることを報告。この物質が免疫チェックポイント阻害剤「オプジーボ」につながった。縣さんは「まさに点と点がつながるように、一つひとつの研究が積み重なって大きな成果につながった。本庶先生の指導力がそれだけ大きかった」と語る。 オプジーボの効果は驚くほどだった。九州大病院の中西洋一・呼吸器科教授らは3年前、抗がん剤が効かずに状態が落ちていた肺がん患者に、オプジーボを初めて使った。数日のうちにがんが縮小し、患者は元気を取り戻した。 この薬は、効く人には効果が長く続きやすいという特徴がある。千葉大腫瘍(しゅよう)内科の滝口裕一教授は「がんが転移しもう治らないと考えられた状態の人が、がんが増大しないまま数年間生き続けているケースも少なくない」と話す。 アリソン教授も同じころ、免疫のブレーキにかかわる別の分子「CTLA―4」の研究を進め、この作用を利用したがん治療薬「ヤーボイ」の開発に道を開いた。本庶研で06~15年にPD―1の研究をした慶応大学の竹馬俊介講師によると、オプジーボはヤーボイよりも幅広い種類のがんの治療に使われ、臨床での評価はより高いという。 東京都立駒込病院の吉野公二・皮膚腫瘍科部長は「オプジーボとヤーボイなど2種類を使うとさらに効果が高まることがあり、こうした手法が広がりそうだ」と話す。 課題もある。これらの薬には重症筋無力症や劇症1型糖尿病といった、従来の抗がん剤にあまり見られない副作用がある。また、免疫チェックポイント阻害剤は高価で、よく効くのは2~3割の人にとどまる。効くかどうかを事前に予測するのは難しい。 最近、がん細胞の中の遺伝子変異が多い人では効きやすいらしいことがわかってきた。細胞中の数百の遺伝子を同時に調べて遺伝子変異の量をみる「パネル検査」という手法が開発され、来年にも国内で保険適用される可能性がある。